チルゼパチドは、マンジャロ(2型糖尿病の治療薬)とゼップバウンド(肥満症などの治療薬)に含まれる成分です。この記事では、商品名ではなく成分としてのチルゼパチドについて、これまでの臨床試験でわかっていることをまとめます。
結論からお伝えすると、臨床試験では、2型糖尿病の人で血糖値の改善、肥満症の人で体重の減少、睡眠時無呼吸症候群の人で無呼吸の回数の減少が報告されています。一方で、吐き気や便秘などの胃腸の症状が多く、まれに重い副作用も起こります。また、使うのをやめると体重が戻りやすいこともわかっています。
この記事でわかること
- 日本人の2型糖尿病・肥満症を対象にした臨床試験の結果
- セマグルチドと比べた試験と、約3年間の長期の試験の結果
- 睡眠時無呼吸症候群を対象にした臨床試験の結果
- 使うのをやめたあと、体重はどうなるのか
- よくある副作用と、注意が必要な重い副作用
1. 主な臨床試験
チルゼパチドは、対象となる病気ごとに大規模な臨床試験が行われてきました。この記事では、次の6つの試験を紹介します。うち2つは日本人を対象にした試験です。
| 試験名 | 対象 | 人数・期間 | 比べた相手 |
|---|---|---|---|
| SURPASS J-mono | 日本人の2型糖尿病 | 636人・52週 | デュラグルチド(GLP-1受容体作動薬) |
| SURMOUNT-J | 日本人の肥満症(糖尿病なし) | 225人・72週 | プラセボ(偽薬) |
| SURMOUNT-OSA | 肥満を伴う中等症〜重症の睡眠時無呼吸症候群 | 469人・52週 | プラセボ |
| SURMOUNT-5 | 肥満の成人(糖尿病なし) | 751人・72週 | セマグルチド(GLP-1受容体作動薬) |
| SURMOUNT-1(3年) | 肥満と前糖尿病がある成人 | 1,032人・176週 | プラセボ |
| SURMOUNT-4 | 肥満または過体重(糖尿病なし) | 670人・36週+52週 | 途中でプラセボに切り替えた群 |
論文で報告される「有害事象」は、お薬との関係があるかどうかを問わず、試験中に起きた好ましくない出来事すべてを数えたものです。一方、電子添文の「副作用」は、お薬との関係が否定できないものを数えています。この記事では、どちらの数値かを明記しています。
2. 日本人の2型糖尿病
SURPASS J-mono試験
日本国内46施設で、20歳以上の日本人2型糖尿病の人636人を、チルゼパチド5mg・10mg・15mgと、デュラグルチド0.75mgに分け、52週間比較した試験です(Inagaki et al., 2022)。
| 5mg | 10mg | 15mg | デュラグルチド | |
|---|---|---|---|---|
| HbA1cの変化 | −2.4ポイント | −2.6ポイント | −2.8ポイント | −1.3ポイント |
| 体重の変化 | −5.8kg | −8.5kg | −10.7kg | −0.5kg |
- 多かった有害事象:吐き気(チルゼパチド12〜20%、デュラグルチド8%)、便秘(14〜18%、11%)など、胃腸の症状が中心でした。
- 電子添文によると、重い低血糖の報告はありませんでした(日本イーライリリー, 2026a)。
心臓・血管への影響
心臓や血管の病気の既往がある2型糖尿病の人、約1万3千人を対象に、チルゼパチドとデュラグルチドを比べた国際的な試験(SURPASS-CVOT試験)の結果が、2026年9月にマンジャロの電子添文に加わりました。心筋梗塞や脳卒中などの大きな心血管イベントの起こりやすさは、デュラグルチドとの比較でハザード比0.92(95%信頼区間 0.83〜1.01)で、デュラグルチドに劣らないことが示されました(日本イーライリリー, 2026a)。デュラグルチドより少なくなるとまでは示されていません。日本では、この結果にもとづく効能は承認されていません。
3. 日本人の肥満症
SURMOUNT-J試験
日本肥満学会の基準で肥満症と診断された、糖尿病のない日本人の成人225人を対象に、チルゼパチド10mg・15mgとプラセボを72週間比較した試験です。全員が食事と運動の改善にも取り組んでいます(Kadowaki et al., 2025; 日本イーライリリー, 2026b)。
| 10mg | 15mg | プラセボ | |
|---|---|---|---|
| 体重の変化率(平均) | −18.4% | −22.6% | −1.8% |
| 5%以上減った人の割合 | 94.9% | 96.9% | 21.2% |
| 10%以上減った人の割合 | 88.1% | 92.3% | 4.6% |
| 20%以上減った人の割合 | 44.1% | 66.2% | 0% |
- 副作用(電子添文):10mgで56.2%、15mgで63.6%、プラセボで10.7%。多かったのは便秘・吐き気・食欲の低下でした。
- 血糖値が54mg/dL未満になった人:10mgで5.5%、15mgで9.1%、プラセボで1.3%。重い低血糖はありませんでした(日本イーライリリー, 2026b)。
- 有害事象で投与をやめた人は、プラセボ6.7%、10mg 9.6%、15mg 10.4%でした(厚生労働省, 2026)。
減り方には個人差が大きく、20%以上減った人がいる一方で、減り方が小さい人もいます。
4. セマグルチドとの比較
SURMOUNT-5試験
2型糖尿病のない肥満の成人751人を、チルゼパチド(使える最大量の10mgまたは15mg)とセマグルチド(使える最大量の1.7mgまたは2.4mg)に分け、72週間比べた試験です。どちらの薬を使っているか参加者にもわかる形(非盲検)で行われ、日本人を対象にした試験ではありません(Aronne et al., 2025)。
| チルゼパチド | セマグルチド | |
|---|---|---|
| 体重の変化率 | −20.2% | −13.7% |
| 腹囲の変化 | −18.4cm | −13.0cm |
- 体重の変化率の差は6.5ポイントで、この試験ではチルゼパチドのほうが大きく減少しました。
- 多かった有害事象は、どちらの群も胃腸の症状で、多くは軽度〜中等度、主に増量している期間に起こりました。
日本では、チルゼパチド(ゼップバウンド)もセマグルチド(ウゴービ)も、肥満症の治療薬として承認されています(日本肥満学会, 2025)。どちらも条件を満たす人に、医師の管理のもとで使うお薬です。
5. 睡眠時無呼吸症候群
SURMOUNT-OSA試験
肥満を伴う中等症〜重症の閉塞性睡眠時無呼吸症候群の成人469人を対象にした、2つの試験です。試験1はCPAP(寝るときに装着する呼吸補助の機械)を使っていない人、試験2は使っている人が対象で、チルゼパチドとプラセボを52週間比較しました(Malhotra et al., 2024)。
| 試験1(CPAPなし) | 試験2(CPAPあり) | |
|---|---|---|
| 1時間あたりの無呼吸・低呼吸の回数(AHI) | チルゼパチド −25.3回 プラセボ −5.3回 | チルゼパチド −29.3回 プラセボ −5.5回 |
| 体重の変化率 | −17.7%(プラセボ −1.6%) | −19.6%(プラセボ −2.3%) |
開始時のAHIは平均で約50回でした。多かった有害事象は下痢・吐き気・嘔吐・便秘で、多くは軽度〜中等度、増量している期間に多く見られました。
6. 3年間の結果
SURMOUNT-1試験の延長(3年間)
SURMOUNT-1試験の参加者2,539人のうち、肥満と前糖尿病(糖尿病の手前の状態)があった1,032人について、チルゼパチド5mg・10mg・15mgとプラセボを176週間(約3年半)比べ、その後17週間はお薬を使わずに経過をみた試験です(Jastreboff et al., 2025)。
- 176週時点の体重の変化率:5mg −12.3%、10mg −18.7%、15mg −19.7%、プラセボ −1.3%
- 176週までに2型糖尿病になった人:チルゼパチド1.3%、プラセボ13.3%
- お薬をやめて17週後:2型糖尿病になっていた人は、チルゼパチド2.4%、プラセボ13.7%
- 多かった有害事象は胃腸の症状で、多くは軽度〜中等度、主に増量している期間に起こりました。新たな安全性の懸念は報告されていません。
ただし、日本の最適使用推進ガイドラインでは、肥満症への使用は最大72週間とされています(厚生労働省, 2026)。また、チルゼパチドは日本では糖尿病の予防を目的としたお薬としては承認されていません。この試験は、約3年間使い続けた場合の海外の研究結果として参考にしてください。
7. やめたあとの体重
SURMOUNT-4試験
肥満または過体重の成人が、まず36週間チルゼパチドを使い、その後「そのまま続ける群」と「プラセボに切り替える群」に分かれて、さらに52週間経過をみた試験です(Aronne et al., 2024)。
- 最初の36週間で、体重は平均20.9%減少
- その後の52週間:続けた群はさらに5.5%減少、プラセボに切り替えた群は14.0%増加
- 最初に減った分の80%以上を保てた人:続けた群89.5%、切り替えた群16.6%
この結果から、使うのをやめると、減った体重の多くが戻ることがわかっています。日本肥満学会も、中止によって健康障害が悪化する可能性があるため、続けるかやめるかは医師の管理のもとで判断するよう求めています(日本肥満学会, 2025)。
8. 副作用
よくある副作用
電子添文で5%以上とされている副作用は、次のとおりです(日本イーライリリー, 2026a; 2026b)。
- 吐き気、嘔吐、下痢、便秘、腹痛、消化不良、食欲の低下
- 注射した場所の赤み・かゆみ・痛み・腫れ(ゼップバウンドで5%以上)
臨床試験では、これらの胃腸の症状は多くが軽度〜中等度で、量を増やしている期間に起こりやすいと報告されています。
重い副作用
| 副作用 | 頻度 | 気をつけたい症状の例 |
|---|---|---|
| 低血糖 | 頻度不明 | 脱力感、強い空腹感、冷や汗、動悸、手のふるえ、めまいなど。ほかの糖尿病の薬(インスリンなど)と一緒に使うときは特に注意 |
| 急性膵炎 | 0.1%未満 | 嘔吐を伴う、続く激しい腹痛 |
| 胆嚢炎・胆管炎・胆汁うっ滞性黄疸 | 胆管炎0.1%未満、ほかは頻度不明 | 腹痛などのお腹の症状(黄疸では皮膚や白目が黄色くなる) |
| アナフィラキシー・血管性浮腫 | 頻度不明 | 急なアレルギー症状(一般的な例:息苦しさ、じんましん、顔や唇の腫れ) |
| イレウス(腸閉塞) | 頻度不明 | ひどい便秘、お腹の張り、続く腹痛、嘔吐 |
低血糖の症状があるときは、まず糖分(ブドウ糖や糖分を含む飲み物など)をとってください。そのほかの症状があらわれたときは、使用を中止して、すぐに医師に相談してください(日本イーライリリー, 2026a; 2026b)。
そのほかの注意
- 脱水と腎臓:下痢や嘔吐が続くと脱水になり、急性腎障害につながることがあります。
- 妊娠:妊娠中は使用しません。妊娠する可能性のある人は、使用中と最後の注射から1か月間は避妊が必要です。
- 経口避妊薬(ピル):使い始めや増量したばかりの時期に、ピルの効果が弱まるおそれがあります。
- 手術・検査の麻酔:胃の中に食べ物が残りやすく、決められた絶食を守っていても、誤嚥が報告されています。手術や内視鏡検査の前には、使っていることを必ず伝えてください。
- 目(視神経):お薬との因果関係は明らかではありませんが、GLP-1受容体作動薬を使ったあとに、視神経の病気(非動脈炎性前部虚血性視神経症)のリスクが高まる可能性を示す観察研究などが報告されています。見え方に急な変化があれば、医師に相談してください(日本イーライリリー, 2026a; 2026b)。
- 甲状腺:ラットの試験で甲状腺のC細胞腫瘍が増えたことが報告されています。人で同じことが起こるかはわかっていません。甲状腺髄様がんの既往や家族歴がある人での安全性は確立していません(日本イーライリリー, 2026a; 2026b)。
なお、米国のゼップバウンドのラベルでは、甲状腺髄様がんの既往・家族歴がある人と多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)の人は使用できない(禁忌)とされています(Eli Lilly and Company, 2026)。日本の電子添文では禁忌ではなく、「安全性は確立していない」という扱いです。
9. よくある質問
日本人を対象にした試験はありますか?
やめると体重は戻りますか?
いちばん多い副作用は何ですか?
マンジャロとゼップバウンドで副作用は違いますか?
10. まとめ
- チルゼパチドは、日本人を含む大規模な臨床試験で、血糖値の改善・体重の減少・睡眠時無呼吸の改善が報告されています
- セマグルチドと比べた試験や、約3年間の長期の試験も報告されています
- 数値は試験の対象となった人での平均で、個人差があります
- 使うのをやめると、減った体重の多くが戻ることがわかっています
- よくある副作用は胃腸の症状で、まれに急性膵炎や胆嚢炎などの重い副作用も起こります
どちらのお薬も、医師の診察のもとで使うお薬です。使用については、医師にご相談ください。
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参考文献
- Inagaki, N. et al. (2022) ‘Efficacy and safety of tirzepatide monotherapy compared with dulaglutide in Japanese patients with type 2 diabetes (SURPASS J-mono): a double-blind, multicentre, randomised, phase 3 trial’, The Lancet Diabetes & Endocrinology, 10(9), pp. 623–633. doi: 10.1016/S2213-8587(22)00188-7. Available at: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35914543/ (Accessed: 22 September 2026).
- Kadowaki, T. et al. (2025) ‘Efficacy and safety of once-weekly tirzepatide in Japanese patients with obesity disease (SURMOUNT-J): a multicentre, randomised, double-blind, placebo-controlled phase 3 trial’, The Lancet Diabetes & Endocrinology, 13(5), pp. 384–396. doi: 10.1016/S2213-8587(24)00377-2. Available at: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40031941/ (Accessed: 22 September 2026).
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- Aronne, L.J. et al. (2025) ‘Tirzepatide as Compared with Semaglutide for the Treatment of Obesity’, New England Journal of Medicine, 393(1), pp. 26–36. doi: 10.1056/NEJMoa2416394. Available at: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40353578/ (Accessed: 22 September 2026).
- Jastreboff, A.M. et al. (2025) ‘Tirzepatide for Obesity Treatment and Diabetes Prevention’, New England Journal of Medicine, 392(10), pp. 958–971. doi: 10.1056/NEJMoa2410819. Available at: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39536238/ (Accessed: 22 September 2026).
- Aronne, L.J. et al. (2024) ‘Continued treatment with tirzepatide for maintenance of weight reduction in adults with obesity: the SURMOUNT-4 randomized clinical trial’, JAMA, 331(1), pp. 38–48. doi: 10.1001/jama.2023.24945. Available at: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38078870/ (Accessed: 22 September 2026).
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- 日本イーライリリー (2026b) 『ゼップバウンド皮下注アテオス 電子添文(2026年9月改訂 第6版)』. Available at: https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00071592.pdf (Accessed: 22 September 2026).
- 日本肥満学会 (2025) 『肥満症治療薬の安全・適正使用に関するステートメント』2025年4月10日改訂. Available at: https://www.jasso.or.jp/data/Introduction/pdf/academic-information_statement_20250410.pdf (Accessed: 22 September 2026).
- 厚生労働省 (2026) 『最適使用推進ガイドライン チルゼパチド(販売名:ゼップバウンド皮下注)~肥満症~』令和7年3月(令和8年5月改訂). Available at: https://www.pmda.go.jp/files/000280607.pdf (Accessed: 22 September 2026).
- Eli Lilly and Company (2026) ZEPBOUND (tirzepatide) injection, for subcutaneous use: prescribing information. DailyMed. Available at: https://dailymed.nlm.nih.gov/dailymed/drugInfo.cfm?setid=487cd7e7-434c-4925-99fa-aa80b1cc776b (Accessed: 22 September 2026).
