GLP-1に関連するお薬について、「目に副作用が出ることがある」「失明することがある」という話を目にすることがあります。使っている方からご質問をいただくこともあります。
この記事では、電子添文(医師・薬剤師向けの公式な文書)と、実際に発表された研究に何が書かれているかを整理します。研究の種類によって言えることが変わるので、そこを区別して並べます。
マンジャロの日本での承認効能は2型糖尿病です。
この記事の結論
- 報告が集まっているのは「視神経炎」ではなく、NAION(非動脈炎性前部虚血性視神経症)という別の病気です
- 欧州の規制当局は、セマグルチド(ウゴービ・リベルサス・オゼンピック)について「非常にまれな副作用」と判断しました。目安は1万人に1人までです
- マンジャロ(チルゼパチド)は、他のGLP-1受容体作動薬と直接比べた研究で、むしろ少ないという結果が出ています(HR 0.45)。ただし「起こらない」という意味ではありません
- 研究の種類で結論が割れています。診療記録をもとにした観察研究では関連あり、比較試験をまとめた解析では関連なしとされています
- 急に片目が見えにくい、視野の一部が欠けるといった変化があれば、眼科を受診してください
1. 視神経炎とNAIONは別の病気です
最初にここを分けておきます。GLP-1に関連するお薬で報告が集まっているのは、視神経炎ではありません。NAION(非動脈炎性前部虚血性視神経症)という、別の病気です。
| 視神経炎 | NAION | |
|---|---|---|
| 何が起きているか | 視神経の炎症 | 視神経乳頭の血のめぐりが足りなくなる |
| 痛み | 目を動かしたときの痛みを伴うことが多い | 通常は痛みがない |
| 起こりやすい年代 | 比較的若い方 | 中高年、血管に関わる持病のある方 |
| MRI | 造影されることが多い | 特徴的な所見に乏しい |
NAIONは「目の脳梗塞」にたとえられることがあります。視神経の根元に向かう細い血管の流れが足りなくなり、片方の目に、痛みを伴わずに、急に見えにくさや視野の欠けが起こります。
片目に起こることが多いため、両目で見ていると気づきにくいという特徴があります。
ただし、報告されているのがNAIONだけとは限りません。セマグルチドまたはチルゼパチドを使用中に目の症状が出た9例をまとめた報告では、NAIONが7例でしたが、両側の視神経乳頭炎が1例、傍中心急性中間層黄斑症が1例含まれていました(Katz et al., 2025)。症例をまとめただけの報告なので、これだけで薬との因果関係は言えません。
2. 電子添文は何と書いているか
日本の電子添文には、薬ごとに記載があります。そして、書きぶりが違います。
マンジャロ(チルゼパチド)15.1.2
薬剤との因果関係は明らかではないが、GLP-1受容体作動薬投与後に非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)の発現リスク増加の可能性を示唆する観察研究等が報告されている。
マンジャロ電子添文 15.1.2(2026年9月改訂・第11版)ウゴービ・リベルサス(セマグルチド)15.1
本剤との因果関係は明らかではないが、海外で実施された2型糖尿病患者を対象とした複数の観察研究において、セマグルチド投与後にNAIONの発現リスクの上昇が報告されている。
ウゴービ電子添文 15.1(2026年6月改訂・第7版)/リベルサス電子添文 15.1(2026年5月改訂・第6版)セマグルチドの2剤は「その成分について上昇が報告されている」、マンジャロは「GLP-1受容体作動薬というくくりで可能性が示唆されている」と書かれています。マンジャロの記載は、チルゼパチドそのものについての報告ではありません(日本イーライリリー, 2026/ノボ ノルディスク ファーマ, 2026a, 2026b)。
「重大な副作用」ではありません
いずれも15.「その他の注意」という項目に書かれています。電子添文で最も重い扱いである「警告」でも、「重大な副作用」(11.1)でもありません。この位置づけは、現時点で因果関係が確かめられていないことと対応しています。
ウゴービとゼップバウンドの記載の違いについては、ウゴービとゼップバウンドの違いでも整理しています。
3. 規制当局はどう判断したか
欧州医薬品庁(EMA)の安全性委員会は、2025年6月6日に判断を公表しました。
欧州医薬品庁 PRAC(2025年6月6日)
NAIONはセマグルチドの「非常にまれな(very rare)」副作用である(セマグルチドを使用する人の1万人に1人までに起こりうる、という意味)。
2型糖尿病の成人では、使用していない人と比べておよそ2倍のリスク上昇が示唆され、これは治療1万人年あたり、およそ1件の上乗せにあたる。
NAIONが確認された場合は、セマグルチドの治療を中止すべきである。
この判断の対象は、オゼンピック・リベルサス・ウゴービの3剤です。マンジャロ(チルゼパチド)への言及は、この発表にはありません(European Medicines Agency, 2025)。
「2倍」と「非常にまれ」は、矛盾していません。もともと起こる頻度が低いので、2倍になっても、絶対の数としては小さいままということです。
4. マンジャロ(チルゼパチド)はどうか
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
他のGLP-1受容体作動薬と直接比べた研究
Hong et al. 2026(Ophthalmology Retina)
2型糖尿病の方で、チルゼパチドを始めた群と、GIPに作用しないGLP-1受容体作動薬を始めた群を、背景をそろえて(傾向スコア1対1マッチ)比べた研究。各群102,590人、36か月の追跡。
NAION:ハザード比 0.45(95%信頼区間 0.27–0.86)── チルゼパチド群のほうが少ない。
糖尿病網膜症 0.79、糖尿病黄斑浮腫 0.82、硝子体出血・網膜剥離 0.66 も、いずれもチルゼパチド群で低い。
読み方に注意が要ります。この研究が比べているのは「チルゼパチド」と「他のGLP-1受容体作動薬」です。GLP-1に関連する薬を使っていない人と比べたものではありません。
つまりこの結果が言っているのは、「リスクがない」ではなく「セマグルチドなど他の薬より低い」ということです。
セマグルチドと合算した研究では
一方、セマグルチドとチルゼパチドをまとめて、他の糖尿病の薬と比べた研究もあります。
Wang et al. 2025(JAMA Network Open)
2型糖尿病で目の病気の既往がない方、背景をそろえて159,398人、2年の追跡。
NAION:35人(0.04%) 対 19人(0.02%)、ハザード比 1.76(1.01–3.07)
その他の視神経の病気:93人(0.12%) 対 54人(0.07%)、ハザード比 1.65(1.18–2.31)
結論に「全体のリスクは低かった(the overall risk was low)」と記されている。
この研究ではNAION以外の視神経の病気についても、やや多いという結果が出ています(Wang et al., 2025)。報告されているのがNAIONだけではない、という点は押さえておいてください。
チルゼパチドだけを取り出して、GLP-1を使っていない人と比べた研究は、現時点で見当たりません。症例報告はいくつか発表されています。
5. 研究の結論が割れている理由
この話題がややこしいのは、研究の種類によって結論が逆になるからです。
| 研究の種類 | 結論 |
|---|---|
| 観察研究(診療記録をもとに、薬を使った人と使わなかった人を比べる)をまとめた解析 | 関連あり。Dhivagaran et al. 2026 では相対リスク 2.52。Heberer et al. 2026 ではハザード比 2.33 |
| 無作為化比較試験(くじ引きのように分けて比べる)をまとめた解析 | 関連なし。Li et al. 2026 は「視神経や視覚に関わる事象のリスク上昇とは関連しなかった」と結論 |
どちらが正しいか、現時点では決着していません。考えられる理由は2つです。
- 観察研究では、薬の影響と、その薬を使う人の背景の影響を区別しにくい。GLP-1に関連する薬を使う方は、もともと糖尿病・睡眠時無呼吸・血管の持病といった、NAIONが起こりやすい条件を持っていることが多くあります
- 比較試験では、めったに起きないことを捉えきれない。NAIONは非常にまれなので、試験の規模と期間では差が出にくいと考えられます
研究の種類の違いと、そこから言えることの範囲については、マンジャロに認知症・がん予防は?でも同じ枠組みで整理しています。
6. どのくらい起こるのか
割合の数字は、どんな集団を調べたかで大きく変わります。ここを混ぜると誤解のもとになるので、分けて並べます。
| 出典 | 調べた集団 | 数字 |
|---|---|---|
| European Medicines Agency 2025 | 規制当局による評価 | 治療1万人年あたり、およそ1件の上乗せ |
| Heberer et al. 2026 | 米国退役軍人の2型糖尿病 102,361人 | 10万人年あたり123件(対照のSGLT2阻害薬は67件)。2.1年で0.29% 対 0.13% |
| Dhivagaran et al. 2026 | 観察研究5本・1,593,554人をまとめた解析 | セマグルチド使用者で10万人あたり118件 |
| Hathaway et al. 2024 | 1つの病院の神経眼科外来の登録データ | 36か月の累積発症率 8.9%(対照1.8%) |
最後の8.9%という数字だけが、桁違いに大きく見えます。これは神経眼科の専門外来を受診した方の登録データから計算されたものだからです。目の症状で専門外来にかかった方が集まっている集団なので、一般に処方を受けている方の発症率ではありません(Hathaway et al., 2024)。
実際に起こる頻度としては、上の3つ(1万人年あたり約1件、10万人年あたり123件、10万人あたり118件)が目安に近いとお考えください。
7. 気づいたら受診していただきたいこと
次のような変化があれば、眼科を受診してください。
- 片方の目が、急に見えにくくなった
- 視野の一部が欠けている(とくに下半分が見えにくい)
- 目の症状が、痛みを伴わずに起きた
NAIONは片目に起こることが多く、両目で見ていると気づきにくいという特徴があります。気になるときは、片目ずつ手で覆って、見え方を確かめてみてください。
見え方の変化に気づいたときは、ご自身の判断でお薬を中止せず、まず当院にご連絡ください。眼科で診断がついた場合に、続けるか中止するかは、医師とご相談のうえ決めます。
電子添文では、消化器の症状など他の副作用についても記載があります。マンジャロの副作用全般については、マンジャロの副作用|吐き気・下痢にまとめています。
診察の前にお伝えいただきたいこと
はじめる前の診察で、次に当てはまる場合はお知らせください。見え方の経過を確認する目安になります。
- 以前にNAIONと診断されたことがある
- 睡眠時無呼吸症候群がある
- 緑内障など、目の病気で治療を受けている
- 糖尿病網膜症があると言われたことがある
マンジャロ(チルゼパチド)による自由診療について
当院が痩身を目的として行うマンジャロの処方は、国内で承認されていない使い方(適応外使用)です。ご検討の前に、以下を必ずお読みください。
治療の内容・期間・回数
週1回(1か月あたり4回程度)、ご自身で皮下注射します(院内での注射も可能です)。2.5mgから始め、4週間投与したのち5mgへ増量します。5mgで効果が十分でない場合は、4週間以上の間隔をあけて2.5mgずつ増量することがあります(電子添文の用法及び用量)。胃腸の症状などで体に合わない場合は、減量したり、増量を先延ばしにしたりします。2.5mgのまま続けていただく場合もあります。当院でお出しする用量は2.5mg・5mg・7.5mg・10mgです。治療期間:あらかじめ定まった期間はありません。2.5mgから増量していく場合、当院で扱う最大量の10mgに達するまでに最短で12週間かかります(4週間ごとに2.5mgずつ増量した場合)。その後どのくらい続けるかに定めはなく、減った体重を保つには継続が必要になる場合があり、中止したあとに体重が戻ることがあります。続けるかどうかは、効果と副作用を確認しながら医師とご相談のうえ決めます。
費用(自由診療・保険適用外)
- マンジャロ 1本 3,250円〜12,980円(税込/用量とご購入本数により異なります)
- 初診料 3,300円(施術を受けていただく場合は無料)
- 採血(ご希望の方のみ)4,400円/院内での注射 2,200円
- オンライン診療の送料 10本以下 1,980円/12本以上 3,000円(目安)
1回のお会計はお薬代で3,980円(2.5mgを1本)〜126,000円(10mgを12本まとめて)です。これに上記の初診料・採血・院内での注射・送料が、必要に応じて加わります。用量別・本数別の価格は料金ページをご覧ください。
適応外使用に関する情報
未承認の使い方です。マンジャロ(一般名:チルゼパチド)は2型糖尿病の治療薬として国内で承認されています。痩身・ダイエット目的での処方は国内で承認されていません。
入手経路。国内の医薬品卸売業者から、国内で承認された医薬品を仕入れています。個人輸入は行っていません。
国内の承認医薬品等。同一成分(チルゼパチド)の肥満症治療薬が国内で承認されています。使用できる医療機関・対象者に要件があり、美容・痩身目的では使用できません。
諸外国の情報。チルゼパチド製剤は米国(体重管理の製剤は2023年11月8日承認)および欧州(2022年9月15日承認、体重管理の効能は2023年12月11日追加)でも承認されていますが、いずれの国でも美容・痩身を目的とした効能は承認されておらず、重大なリスクが明らかになっていない可能性があります。米国の添付文書には、ラットで甲状腺C細胞腫瘍が認められたことに基づく枠組み警告があり、髄様甲状腺がんの既往歴・家族歴のある方と多発性内分泌腫瘍症2型の方は使用できないとされています。
救済制度。承認された効能・効果と異なる目的での使用のため、重い副作用が生じても医薬品副作用被害救済制度の対象外です。
よくある質問
マンジャロを使っていると失明するのですか。
マンジャロとウゴービで、目のリスクは違うのですか。
視神経炎とNAIONは同じものですか。
どのくらいの頻度で起こるのですか。
どんな症状が出たら受診すればよいですか。
目に持病があります。使えますか。
まとめ
GLP-1に関連するお薬と目のリスクについて、いま言えることを整理します。
報告が集まっているのはNAIONで、視神経炎ではありません。欧州の規制当局はセマグルチドについて「非常にまれな副作用」と判断し、目安を1万人に1人までとしました。
マンジャロ(チルゼパチド)は、他のGLP-1受容体作動薬と直接比べた研究でむしろ少ないという結果でした。ただしこれは「他の薬より低い」という意味であって、「起こらない」ということではありません。日本の電子添文にも記載があります。
研究の結論は、種類によって割れています。決着していないことを、決着したかのようにお伝えすることはできません。わかっている範囲でお伝えすると、起こる可能性は非常に低い。ただしゼロではない。だから見え方の変化には気をつけていただきたい── これが現時点の立ち位置です。
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参考文献
- 日本イーライリリー (2026) 『マンジャロ皮下注2.5mgアテオス ほか 電子添文(2026年9月改訂・第11版)』. Available at: https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/2499422G1024_1_11/ (Accessed: 7 October 2026).
- ノボ ノルディスク ファーマ (2026a) 『リベルサス錠3mg/7mg/14mg 電子添文(2026年5月改訂・第6版)』. Available at: https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/2499014F1021_1_07/ (Accessed: 7 October 2026).
- ノボ ノルディスク ファーマ (2026b) 『ウゴービ皮下注0.25mg SD ほか 電子添文(2026年6月改訂・第7版)』. Available at: https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/2499418G5023_1_07/ (Accessed: 7 October 2026).
- European Medicines Agency (2025) PRAC concludes eye condition NAION is a very rare side effect of semaglutide medicines Ozempic, Rybelsus and Wegovy, 6 June 2025. Available at: https://www.ema.europa.eu/en/news/prac-concludes-eye-condition-naion-very-rare-side-effect-semaglutide-medicines-ozempic-rybelsus-wegovy (Accessed: 7 October 2026).
- Hathaway, J.T. et al. (2024) ‘Risk of Nonarteritic Anterior Ischemic Optic Neuropathy in Patients Prescribed Semaglutide’, JAMA Ophthalmology, 142(8), pp. 732–739. doi: 10.1001/jamaophthalmol.2024.2296.
- Katz, B.J. et al. (2025) ‘Ophthalmic Complications Associated With the Antidiabetic Drugs Semaglutide and Tirzepatide’, JAMA Ophthalmology, 143(3), pp. 215–220. doi: 10.1001/jamaophthalmol.2024.6058.
- Wang, L. et al. (2025) ‘Semaglutide or Tirzepatide and Optic Nerve and Visual Pathway Disorders in Type 2 Diabetes’, JAMA Network Open, 8(8), e2526327. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2025.26327.
- Hong, A.T. et al. (2026) ‘Ocular Outcomes with Tirzepatide versus Glucagon-like Peptide-1 Receptor Agonists in Type 2 Diabetes’, Ophthalmology Retina. doi: 10.1016/j.oret.2026.02.002.
- Heberer, K. et al. (2026) ‘New-Onset Nonarteritic Anterior Ischemic Optic Neuropathy and Initiators of Semaglutide in US Veterans With Type 2 Diabetes’, JAMA Ophthalmology, 144(3), pp. 259–264. doi: 10.1001/jamaophthalmol.2025.6262.
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