オルフォルグリプロン(orforglipron)は、1日1回飲むタイプのGLP-1受容体作動薬です。これまでのGLP-1受容体作動薬の多くは注射薬でしたが、この薬は注射ではなく錠剤で、食事の前後を問わず服用できるように設計されています。
結論からお伝えすると、米国では2026年4月に肥満症の治療薬として承認されましたが、日本では承認申請中で、まだ承認されていません(2026年9月時点)。第3相試験では、糖尿病のない肥満の人で72週間に体重が平均7〜11%減少し、2型糖尿病の人では血糖値の指標(HbA1c)が改善しました。一方で、吐き気・便秘・下痢などの胃腸の有害事象が多く、有害事象で投与をやめた人はプラセボ(偽薬)より多く報告されています。この記事では、論文と公開されている情報にもとづいて、わかっていることを整理します。
お急ぎの方は、4. 体重の変化と8. 承認と日本の状況からお読みください。表記のゆれについては9. よくあるご質問で説明しています。
この記事でわかること
- オルフォルグリプロンはどんな薬で、注射のGLP-1受容体作動薬や飲むセマグルチド(リベルサス)と何が違うのか
- 第3相試験で報告された体重・血糖の変化と有害事象
- 注射薬からこの薬に切り替えたときの体重の変化を調べた試験の結果
- 米国での承認内容と、日本での申請・治験の状況
- 日本人を対象にした試験でわかっていること
1. 飲み薬のGLP-1とは
オルフォルグリプロンは、中外製薬が創り出した化合物(開発コードOWL833)で、2018年に米国のイーライリリー社が全世界での開発・販売の権利を取得しました(中外製薬, 2018)。セマグルチド(GLP-1受容体作動薬)やチルゼパチド(GIP/GLP-1受容体作動薬)は「ペプチド」と呼ばれる小さなたんぱく質で、そのままでは胃や腸で分解されるため注射で使われます。オルフォルグリプロンはペプチドではない低分子の化合物で、飲んでも吸収されるように設計されています(Kawai et al., 2020)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 一般名 | オルフォルグリプロン(orforglipron)。開発元の日本イーライリリーの表記は「オルホルグリプロン」 |
| 米国での販売名 | Foundayo |
| 開発会社 | イーライリリー(米国)。創製は中外製薬 |
| 分子の種類 | 非ペプチドの低分子GLP-1受容体作動薬 |
| 投与方法 | 錠剤を1日1回。米国の添付文書では食事の有無を問わず服用 |
| 承認状況(2026年9月) | 米国:肥満症で承認済み(2026年4月1日)。日本:申請中・未承認 |
2. 作用の仕組み
GLP-1受容体作動薬は、食事をとったときに腸から出るホルモン「GLP-1」と同じように、GLP-1受容体を刺激します。これにより、血糖値に応じたインスリンの分泌を促し、食欲を抑え、胃の動きをゆるやかにすると考えられています。オルフォルグリプロンは、GLP-1受容体の特定の場所に結合して受容体を活性化することが、構造解析で示されています(Kawai et al., 2020)。
血液中の薬の濃度が半分になるまでの時間(半減期)は約25〜68時間と長く、1日1回の服用で効果が保たれると考えられています(Pratt et al., 2023)。食後に服用すると血液中の濃度は空腹時より2割前後低くなりますが、効果に意味のある差は生じないと判断され、食事や飲水の時間に合わせずに服用できるとされています(Ma et al., 2024)。
リベルサスとの違い
日本で承認されている「飲むGLP-1受容体作動薬」には、リベルサス(経口セマグルチド)があります。リベルサスはペプチドであるセマグルチドに吸収を助ける成分を組み合わせた薬で、日本での効能は2型糖尿病です。空腹時にコップ約半分の水で服用し、服用後30分は飲食を避ける必要があります(ノボ ノルディスク ファーマ, 2026)。オルフォルグリプロンにはこの制限がない点が違いです。2型糖尿病の人でリベルサスと直接比べた試験の結果は、5章で紹介します。
3. 主な臨床試験
オルフォルグリプロンの第3相試験は、肥満症を対象にした「ATTAIN」と、2型糖尿病を対象にした「ACHIEVE」の2つのプログラムで行われています。この記事では、次の試験を紹介します。いずれも開発元のイーライリリー社が資金を提供して行った試験です。
| 試験名 | 対象 | 人数・期間 | 比べた相手 |
|---|---|---|---|
| ATTAIN-1 | 肥満・過体重(糖尿病なし) | 3,127人・72週 | プラセボ(偽薬) |
| ATTAIN-2 | 肥満・過体重+2型糖尿病 | 1,613人・72週 | プラセボ |
| ATTAIN-J | 日本人の肥満症 | 238人・72週 | プラセボ |
| ACHIEVE-1 | 食事・運動療法のみの2型糖尿病 | 559人・40週 | プラセボ |
| ACHIEVE-3 | 2型糖尿病 | 1,698人・52週 | 経口セマグルチド(リベルサス) |
| ACHIEVE-J | 日本人の2型糖尿病 | 401人・52週 | 用量の違う群どうし |
| ATTAIN-MAINTAIN | 注射薬で減量したあとの人 | 376人・52週 | プラセボ |
論文で報告される「有害事象」は、薬との関係があるかどうかを問わず、試験中に起きた好ましくない出来事すべてを数えたものです。米国の添付文書の「副作用」は、薬との関係が否定できないものを数えています。この記事では、どちらの数値かを明記しています。
4. 体重の変化
ATTAIN-1試験(糖尿病のない肥満・過体重)
糖尿病のない肥満・過体重の成人3,127人を、オルフォルグリプロン6mg・12mg・36mgとプラセボに分け、食事と運動の改善を行いながら72週間比べた国際的な試験です。日本の施設も参加しています(Wharton et al., 2025; Eli Lilly and Company, 2026a)。
| 項目 | 6mg | 12mg | 36mg | プラセボ |
|---|---|---|---|---|
| 体重の変化率(平均) | −7.5% | −8.4% | −11.2% | −2.1% |
| 10%以上減った人の割合 | — | — | 54.6% | 12.9% |
| 15%以上減った人の割合 | — | — | 36.0% | 5.9% |
| 20%以上減った人の割合 | — | — | 18.4% | 2.8% |
- 腹囲、収縮期血圧、中性脂肪、non-HDLコレステロールも改善しました。
- 有害事象で投与をやめた人は、オルフォルグリプロンの群で5.3〜10.3%、プラセボで2.7%でした。
- イーライリリー社の発表では、最高用量を72週間飲み続けた場合を想定した別の推定方法では、体重の減少は平均12.4%でした(Eli Lilly and Company, 2026a)。同じ試験でも推定方法によって数値が変わります。
ATTAIN-2試験(肥満・過体重+2型糖尿病)
BMI 27以上で2型糖尿病のある成人1,613人を、オルフォルグリプロン6mg・12mg・36mgとプラセボに分け、72週間比べた試験です(Horn et al., 2025)。
- 72週時点の体重の変化率:6mg −5.1%、12mg −7.0%、36mg −9.6%、プラセボ −2.5%
- HbA1cを含む血糖・脂質などの指標も改善しました(この記事では体重の数値のみ示します)
- 有害事象で投与をやめた人は6.1〜9.9%(プラセボ4.1%)で、主に胃腸の症状によるものでした
ATTAIN-2はATTAIN-1とは別の試験で、対象も異なるため、2つの試験の数値を直接比べることはできません。
日本人の肥満症
肥満に関連する健康障害のある日本人の肥満症の成人238人(BMI 27以上35未満で健康障害2つ以上、またはBMI 35以上で1つ以上)を対象にした第3相試験(ATTAIN-J)の結果が、臨床試験の登録サイトに掲載されています。72週時点の体重の変化率は、6mgで−5.90%、12mgで−8.69%、36mgで−7.93%、プラセボで−0.63%でした。5%以上減った人の割合は、それぞれ45.9%、61.4%、58.3%、プラセボ15.0%でした(ClinicalTrials.gov, 2026)。この試験は論文としてはまだ公表されていません。参加者の平均体重は約88kgで、海外の試験(ATTAIN-1では約103kg)より軽く、数値をそのまま比べることはできません。12mgと36mgで数値の順序が海外の試験と逆になっていますが、人数の少ない試験で、その理由は説明されていません。
5. 血糖への効果
ACHIEVE-1試験(食事・運動療法のみの2型糖尿病)
薬を使っていない2型糖尿病の成人559人を、オルフォルグリプロン3mg・12mg・36mgとプラセボに分け、40週間比べた試験です。開始時のHbA1cは平均8.0%でした(Rosenstock et al., 2025)。
- HbA1c(過去1〜2か月の血糖の平均を示す値)の変化:3mg −1.24、12mg −1.47、36mg −1.48%ポイント、プラセボ −0.41%ポイント
- 体重の変化率:−4.5%、−5.8%、−7.6%、プラセボ −1.7%
- 重い低血糖の報告はありませんでした。有害事象で投与をやめた人は4.4〜7.8%(プラセボ1.4%)
ACHIEVE-3試験(リベルサスとの比較)
2型糖尿病の成人1,698人を、オルフォルグリプロン12mg・36mgと、経口セマグルチド(リベルサス)7mg・14mgに分けて52週間比べた試験です。どちらの薬かが参加者にもわかる形(非盲検)で行われ、日本の施設も参加しました(Rosenstock et al., 2026)。
- HbA1cの変化:オルフォルグリプロン12mg −1.71、36mg −1.91%ポイント。経口セマグルチド7mg −1.23、14mg −1.47%ポイント
- 胃腸の有害事象:オルフォルグリプロン58〜59%、経口セマグルチド37〜45%
- 有害事象で投与をやめた人:オルフォルグリプロン9〜10%、経口セマグルチド4〜5%。脈拍の増加もオルフォルグリプロンで大きい結果でした
この試験は2型糖尿病の血糖値を比べたもので、肥満症での効果を比べたものではありません。血糖値の改善はオルフォルグリプロンのほうが大きかった一方、胃腸の症状や投与の中止も多く、良い面と注意すべき面の両方が報告されています。
日本人の2型糖尿病
日本人の2型糖尿病の成人401人を対象に、3mg・12mg・36mgで52週間の安全性を調べた試験(ACHIEVE-J)では、有害事象で投与をやめた人は3mgで5%、12mgで8%、36mgで14%でした。重い低血糖はなく、著者らは、日本人の2型糖尿病の人でも安全性の面で受け入れられる範囲だったと結論しています。ただし、どの用量かが参加者にもわかる形(非盲検)で52週間行われた試験での結果です(Yabe et al., 2026)。用量が多いほど中止が多い傾向は、日本人でも同じでした。
6. 注射から飲み薬への切替
ATTAIN-MAINTAIN試験
別の試験(SURMOUNT-5)で72週間、チルゼパチド(205人)またはセマグルチド(171人)の注射を使った人を、オルフォルグリプロンとプラセボに3:2で分け、さらに52週間追跡した試験です。減った体重をどれだけ保てたかは、注射の終盤で体重が安定していた人で計算しています(Aronne et al., 2026)。
- 注射薬で減った体重のうち、52週後も保たれていた割合の平均(維持率、途中で投与をやめた人も含めた推定):チルゼパチドから切り替えた群で、オルフォルグリプロン74.7%、プラセボ49.2%
- セマグルチドから切り替えた群で、オルフォルグリプロン79.3%、プラセボ37.6%
- 多かった有害事象は胃腸の症状で、多くは軽度〜中等度でした
この結果は、注射薬をやめてプラセボに切り替えるよりも、オルフォルグリプロンに切り替えたほうが体重を保ちやすかったことを示しています。ただし、論文の著者らも述べているとおり、注射薬を続けた場合と比べた群はなく、期間も1年間です。注射薬を続けるのとどちらがよいかは、この試験からはわかりません。
7. 有害事象と副作用
臨床試験の有害事象
いずれの試験でも、最も多かった有害事象は吐き気・嘔吐・下痢・便秘などの胃腸の症状で、多くは軽度〜中等度、主に量を増やしている時期に起こりました。用量が多いほど、有害事象で投与をやめる人は多い傾向でした(Wharton et al., 2025; Horn et al., 2025; Rosenstock et al., 2025)。
肝臓への影響については、第3相の7試験・11,220人をまとめた解析で主な評価の対象とされ、薬による肝障害と判断された例はなかったと報告されています(Wharton et al., 2026)。
米国の添付文書
米国の添付文書では、5%以上の人に起こり、プラセボより多かった副作用として、吐き気、便秘、下痢、嘔吐、消化不良、腹痛、腹部膨満、げっぷ、胃食道逆流症、おならの増加といった胃腸の症状が挙げられています。胃腸以外では、頭痛、疲労、脱毛が挙げられています。副作用で投与をやめた人は8%(プラセボ3%)でした(Eli Lilly and Company, 2026b)。
- 甲状腺の腫瘍に関する警告:GLP-1受容体作動薬に共通の枠囲みの警告として、甲状腺C細胞腫瘍のリスクが記載されています。ただし添付文書には、オルフォルグリプロンはラットやマウスでは薬理作用を示さず、げっ歯類で腫瘍を生じていないこと、人での関連は不明であることも書かれています。甲状腺髄様がんの既往・家族歴がある人と多発性内分泌腫瘍症2型の人、この薬に重い過敏症を起こしたことがある人は使用できない(禁忌)とされています。
- そのほかの注意:急性膵炎、重い胃腸の症状、脱水による急性腎障害、インスリンやスルホニル尿素薬と併用したときの低血糖、過敏症、糖尿病網膜症の悪化、胆のうの病気、手術の麻酔のときに胃の内容物が気管に入ること(誤嚥)が挙げられています(Eli Lilly and Company, 2026b)。
日本には添付文書がないため、日本での「副作用」の頻度は示せません。上の内容は米国での承認内容にもとづくものです。
8. 承認と日本の状況
| 地域 | 状況(2026年9月時点) |
|---|---|
| 米国 | 2026年4月1日に肥満症(および体重に関連する病気のある過体重)で承認。販売名Foundayo。2型糖尿病は申請中 |
| 欧州(EU) | 肥満症・2型糖尿病で審査中。承認なし |
| 日本 | 未承認。肥満症で承認申請済み(2025年10〜12月期)。承認の時期・薬価・販売名は未定 |
米国の添付文書では、少ない量から始めて30日以上ごとに段階的に増やす用法とされています(Eli Lilly and Company, 2026b)。臨床試験ではカプセル製剤(6mg・12mg・36mg)が使われ、米国で承認された錠剤では、これに相当する用量が5.5mg・9mg・17.2mgと表記されています(Eli Lilly and Company, 2026b, 2026d)。イーライリリー社は、肥満症または2型糖尿病の治療薬として40か国以上で承認申請を提出したと発表しています(日本イーライリリー, 2026)。日本での申請については、同社の2025年10〜12月期の決算発表に、日本で肥満症の承認申請を提出したことが記載されています(Eli Lilly and Company, 2026c)。日本の医療機関で処方を受けることはできず、承認の時期も公表されていません。
国内の承認薬
日本で肥満症の治療薬として承認されている注射薬は、セマグルチド(ウゴービ、2023年3月承認)とチルゼパチド(ゼップバウンド、2024年12月承認)です(PMDA, 2026a; PMDA, 2026b)。チルゼパチドの臨床試験の結果は「チルゼパチドの効果と安全性」の記事で、マンジャロとゼップバウンドの違いは「マンジャロとゼップバウンドの違い」の記事で紹介しています。どちらも保険適用がありますが、最適使用推進ガイドラインで対象となる人と医療機関が限定されています(厚生労働省, 2026a, 2026b)。マンジャロ(チルゼパチド)とリベルサス(経口セマグルチド)の日本での効能は2型糖尿病です。リラグルチドの肥満症用の製剤(海外名サクセンダ)は、日本では承認されていません。
個人輸入の注意
日本で承認されていない薬を海外の通販サイトなどから個人輸入することは、おすすめできません。厚生労働省は、個人輸入される医薬品について、日本の法律にもとづく品質・有効性・安全性の確認がされていないこと、偽造品の可能性があること、健康被害が起きても医薬品副作用被害救済制度の対象にならないことを注意喚起しています(厚生労働省, 2025)。
9. よくある質問
オルフォルグリプロンは日本で使えますか?
オルフォルグリプロンとオルフォルグリプロンは同じ薬ですか?
注射のGLP-1受容体作動薬と効果は同じですか?
リベルサスとは何が違いますか?
飲み薬なら副作用は少ないですか?
注射薬から飲み薬に切り替えられますか?
10. まとめ
- オルフォルグリプロンは、1日1回飲む低分子のGLP-1受容体作動薬で、食事の前後を問わず服用できるように設計されています
- 糖尿病のない肥満・過体重の人では、72週間で体重が平均7〜11%減少しました(プラセボ2.1%)。2型糖尿病の人ではHbA1cが改善しました
- 吐き気・便秘・下痢などの胃腸の有害事象が多く、用量が多いほど投与をやめる人も多い傾向でした
- 注射薬から切り替えた試験では、プラセボより体重を保ちやすい結果でしたが、注射薬を続けた場合との比較はありません
- 米国では2026年4月に肥満症で承認されました。日本は申請中で未承認です。個人輸入は品質・安全性が確認されておらず、救済制度の対象外です
この記事の内容は2026年9月時点のものです。承認や試験の結果が公表されるたびに、状況は変わります。
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参考文献
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